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チッソ分社化による被害者切り捨てを許さない!

                                         弁護士 寺内大介
加害者を救済し被害者を切り捨てる与党法案
 与党は、2009年3月13日、水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案(以下「与党法案」という)を国会に上程した。熊本地裁で、高岡滋医師(水俣協立病院)に対する反対尋問が実施される日にあわせての提出である。
与党法案の特徴は、「チッソの分社化」で加害者を救済する一方で、「地域指定の解除」で被害者を切り捨てるということである。

加害企業チッソの責任逃れは許されない
 与党法案が目論むチッソの分社化とは、チッソを、被害補償を行う親会社と液晶などの事業部門を受け継ぐ子会社(事業会社)に分ける会社分割のことであり、親会社は事業会社の株を保有し、その売却益を被害補償にあてるという。
 そして、詐害行為取消権や破産法上の否認権を認めないなど、事業会社への責任追及を法的に封じることにより、チッソの責任を事業会社の株の売却益に限定しその他の責任を免れさせるものであり、徹頭徹尾、加害企業を免責する制度である。

いまなぜ、チッソ分社化か? 
 では、なぜ、今、チッソの分社化が取りざたされるのか?
 分社化は、悪名高い加害企業としてのイメージを払拭するため、チッソの永年の悲願であった。しかし、これまで、「チッソが責任逃れをすることは許されない」という社会的合意のもと、分社化が政治課題になることはなかった。
 ところが、2004年の関西水俣病訴訟の最高裁判決で、国の責任が認められたことを受けて、国に、水俣病問題を最終解決する責任が生じた。
 環境省は、新保健手帳の交付による医療費の補助で幕引きを図ろうとしたが、認定申請や裁判をする人は増え続けた。
 窮した与党は、2007年「新救済策」を発表し、一部患者団体の同意を取り付けたが、裁判を続ける不知火患者会(会員約2100人)とチッソの同意が得られなかった。
 そこで、チッソの同意を取り付けるために提案されたのが、分社化を認める与党法案なのである。
 
加害者救済先にありき~公害地域に蓋
 このように、加害企業チッソの同意を取り付けるという目論みが先にあるため、与党法案には、被害者救済に関する条項は1ヵ条しかない。
 そのうえ、不知火海沿岸地域の公害地域としての指定を解除するという条項まである。
 この地域指定の解除が認められれば、今後、水俣病としての認定を受けようと思っても、その道が閉ざされてしまう。「水俣病患者が今後出ることはない」というのである。

いまだ明らかにされない水俣病被害の全容
 原告団・弁護団は、“ジョイント2009”と銘打ってミナマタ地域を1軒1軒訪問し、被害の聴き取りを行っている。その中で、歩くのもままならない被害者から、「身内がチッソに勤めている」とか「裁判すると“金欲しさ”とか言われる」など、水俣病被害者として声を上げることの難しさを教えられる。
 このような被害者が残されている限り、チッソの分社化や地域指定の解除によって、加害者を免責するわけにいかないことは明らかである。

不知火海沿岸住民の健康調査を! 
 私たちは、環境省に対し、水俣病被害の全容を明らかにすべく、不知火海沿岸住民の一斉健康調査(水俣病検診)を実施するよう求めてきた。潮谷義子前熊本県知事も同様の要請を行った。
しかしながら、環境省は、「医師等の確保ができない」などと、極めて不誠実な態度でこれを拒否している。他方、与党法案は、「公的診断」により水俣病被害者であるかどうか判断するとしている。
 健康調査できないはずの国に、適切な公的診断ができるのか?このような国のご都合主義に、患者が納得できるはずもない。

広がる水俣病患者の連帯
 国の狙いが明らかになるにつれ、患者の間では“与党法案No”の声が広がりつつある。
 3月20日には、認定患者や支援者のグループが661人の賛同者を得て与党法案の撤回を求める声明を発表し、22日には、共産党の市田書記局長との懇談会に10の被害者団体が集まり、「幕引きを許さない」との意見が続出した。
 公害の原点ミナマタを闇に葬り去らせないため、皆様方のご支援をお願いする。

                            (暮らしと自治くまもと2009年5月号より)
by tanpopo-tera | 2010-02-12 15:10 | ノーモア・ミナマタ訴訟
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