弁護士 寺内大介
1 集団訴訟の提起 2000年7月、松谷訴訟最高裁判決で、厚労省の原爆症認定のありかたを断罪する判決が確定したことを受け、2001年5月、厚労省は「原爆症認定に関する審査の方針」を発表した。 しかし、同方針は、司法判断を無視し、従来よりかえって原爆症患者を切り捨てるものであったため、被爆者たちの怒りを買い、全国的に原爆症認定を求める集団申請が提起された。そして、申請を却下された全国の被爆者たちが2003年に立ち上がったのが、原爆症認定集団訴訟である(17地裁)。 2 国の基準の誤り 国が固執してきた認定基準は、アメリカの核実験のデータをベースにした机上の理論である。そして、放射線の人体影響に関する調査も、近距離被爆者と遠距離被爆者を比較したものであるため、遠距離被爆者への影響を過小評価するものとなっていた。したがって、遠距離(爆心地から2km以遠)被爆者や、入市被爆者(原爆投下後、広島・長崎に入った者)の健康影響(脱毛・下痢などの急性症状)を合理的に説明できない。要するに、被爆者に生じた現実の被害から出発するのでなく、架空の理論に基づいて原爆被害を機械的に切り捨てるところに、根本的な誤りがあったのである。 3 国を動かしたヒバクシャたちのたたかい 国は、被爆者の急性症状を、衛生状態やストレスのせいだなどと弁明し、ついには、原告らが、あたかも、被爆者でないかのごとき侮辱まで行った。 行政自ら被爆者手帳を交付しておきながら、訴訟になれば、被爆者であること自体に疑問を呈するなど、支離滅裂の主張に終始した。こうした国の応訴態度によって、全員救済に向けた被爆者の団結は、かえって強まった。 結果、15地裁・4高裁で被爆者が19連勝し、2009年8月6日、国に原告全員救済の確認書に署名させるに至ったのである(その後で21連勝)。 4 生きているうちに救済を 集団訴訟の結果、2008年3月から、「新しい審査の方針」が策定され、申請者も急増したが、審査がなされず、約8000名の被爆者が審査待ちの状態である。高齢の被爆者を生きているうちに救済することが急務である。 (2010年2月19日「自由法曹団九州ブロックへの報告」より) #
by tanpopo-tera
| 2010-02-19 11:19
| 原爆症認定集団訴訟
弁護士 寺内大介
水俣病1000人検診 昨年の新春号で、「これまで何度か『水俣病は終わった』とされたが、これまで終わらなかった主因は、不知火海沿岸住民の健康調査をしていないことにあると思う」と書いた。 昨夏、患者の声を無視して強行された水俣病問題の解決に関する特別措置法は、行政が沿岸住民の健康調査を行うべきことを規定したが、未だ、行う気配はない。 そこで、昨年、9月20日、21日、不知火海沿岸住民1000人に対する一斉検診が実施された(原田正純実行委員長)。 対象地域の見直し必至 調査の結果、受診者の約9割に水俣病の症状が確認され、しかも、約9割が初めての受診だという。そして、これまで行政が救済対象としていない地域(姫戸・倉岳・栖本・新和・河浦など)でも多数の患者が確認され(213人のうち93%)、水銀曝露が終わったとされる昭和44年以降に生まれた人にも多数の患者が確認されている(31人のうち71%)。 救済範囲が広がることを恐れて、行政は調査をしないのだろうが、問題の先送りに過ぎない。 ノーモア・ミナマタ 提訴から4年を経過したノーモア・ミナマタ国賠訴訟は、今春にも、裁判所の解決勧告を引き出し、国、熊本県、チッソと裁判上の和解をすることによって大量の患者を救済するシステム=司法救済制度を実現したいと考えている。 すべての被害者が、行政任せではなく、裁判に立ち上がることこそが、ノーモア・ミナマタを確実にする道だと思う。 皆様の一層のご協力をお願いしたい。 (熊本保険医新聞2010年新年号より) #
by tanpopo-tera
| 2010-02-12 16:12
| ノーモア・ミナマタ訴訟
弁護士 寺内大介
終わらない水俣病 これまで何度か「水俣病は終わった」とされた。 しかし、公式確認から53年を迎える今なお“終わる”気配はない。 熊本地裁には、1500名を超える患者たちが、国、熊本県、チッソを被告として、ノーモア・ミナマタ国賠訴訟を闘っている。裁判をしていない患者を含めると2万人を超える患者が未救済のまま放置されている。 なぜ終わらないのか? 水俣病の加害者たちは、何度も水俣病問題を終わらせようとしてきた。 しかし、これまで終わらなかった主因は、不知火海沿岸住民の健康調査をしていないことにあると思う。 患者たちが立ち上がれば、加害者たちは、なんとか彼らを黙らせようとして策を施す。しかし、ミナマタに背負わされた偏見の重みは、被害者が声を上げることを躊躇させる。 そして、加害者たちが策を施したときに名乗り出ることができなかった者が救済されるシステムがないため、躊躇した彼らは放置されてしまう。 潜在患者がいることを前提にすれば、これから出るかもしれない被害者がどれくらいいるのか把握するための健康調査が不可欠となるはずであり、潜在患者が救済されるためのシステムが必要となろう。 ノーモア・ミナマタ ノーモア・ミナマタ国賠訴訟は、今秋結審し、来春にも判決を迎える見込みである。これから声を上げる被害者も救済されるシステム=司法救済制度=を実現するべく、皆様のご協力をお願いします。 (熊本保険医新聞2009年新年号より) #
by tanpopo-tera
| 2010-02-12 15:15
| ノーモア・ミナマタ訴訟
弁護士 寺内大介
加害者を救済し被害者を切り捨てる与党法案 与党は、2009年3月13日、水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案(以下「与党法案」という)を国会に上程した。熊本地裁で、高岡滋医師(水俣協立病院)に対する反対尋問が実施される日にあわせての提出である。 与党法案の特徴は、「チッソの分社化」で加害者を救済する一方で、「地域指定の解除」で被害者を切り捨てるということである。 加害企業チッソの責任逃れは許されない 与党法案が目論むチッソの分社化とは、チッソを、被害補償を行う親会社と液晶などの事業部門を受け継ぐ子会社(事業会社)に分ける会社分割のことであり、親会社は事業会社の株を保有し、その売却益を被害補償にあてるという。 そして、詐害行為取消権や破産法上の否認権を認めないなど、事業会社への責任追及を法的に封じることにより、チッソの責任を事業会社の株の売却益に限定しその他の責任を免れさせるものであり、徹頭徹尾、加害企業を免責する制度である。 いまなぜ、チッソ分社化か? では、なぜ、今、チッソの分社化が取りざたされるのか? 分社化は、悪名高い加害企業としてのイメージを払拭するため、チッソの永年の悲願であった。しかし、これまで、「チッソが責任逃れをすることは許されない」という社会的合意のもと、分社化が政治課題になることはなかった。 ところが、2004年の関西水俣病訴訟の最高裁判決で、国の責任が認められたことを受けて、国に、水俣病問題を最終解決する責任が生じた。 環境省は、新保健手帳の交付による医療費の補助で幕引きを図ろうとしたが、認定申請や裁判をする人は増え続けた。 窮した与党は、2007年「新救済策」を発表し、一部患者団体の同意を取り付けたが、裁判を続ける不知火患者会(会員約2100人)とチッソの同意が得られなかった。 そこで、チッソの同意を取り付けるために提案されたのが、分社化を認める与党法案なのである。 加害者救済先にありき~公害地域に蓋 このように、加害企業チッソの同意を取り付けるという目論みが先にあるため、与党法案には、被害者救済に関する条項は1ヵ条しかない。 そのうえ、不知火海沿岸地域の公害地域としての指定を解除するという条項まである。 この地域指定の解除が認められれば、今後、水俣病としての認定を受けようと思っても、その道が閉ざされてしまう。「水俣病患者が今後出ることはない」というのである。 いまだ明らかにされない水俣病被害の全容 原告団・弁護団は、“ジョイント2009”と銘打ってミナマタ地域を1軒1軒訪問し、被害の聴き取りを行っている。その中で、歩くのもままならない被害者から、「身内がチッソに勤めている」とか「裁判すると“金欲しさ”とか言われる」など、水俣病被害者として声を上げることの難しさを教えられる。 このような被害者が残されている限り、チッソの分社化や地域指定の解除によって、加害者を免責するわけにいかないことは明らかである。 不知火海沿岸住民の健康調査を! 私たちは、環境省に対し、水俣病被害の全容を明らかにすべく、不知火海沿岸住民の一斉健康調査(水俣病検診)を実施するよう求めてきた。潮谷義子前熊本県知事も同様の要請を行った。 しかしながら、環境省は、「医師等の確保ができない」などと、極めて不誠実な態度でこれを拒否している。他方、与党法案は、「公的診断」により水俣病被害者であるかどうか判断するとしている。 健康調査できないはずの国に、適切な公的診断ができるのか?このような国のご都合主義に、患者が納得できるはずもない。 広がる水俣病患者の連帯 国の狙いが明らかになるにつれ、患者の間では“与党法案No”の声が広がりつつある。 3月20日には、認定患者や支援者のグループが661人の賛同者を得て与党法案の撤回を求める声明を発表し、22日には、共産党の市田書記局長との懇談会に10の被害者団体が集まり、「幕引きを許さない」との意見が続出した。 公害の原点ミナマタを闇に葬り去らせないため、皆様方のご支援をお願いする。 (暮らしと自治くまもと2009年5月号より) #
by tanpopo-tera
| 2010-02-12 15:10
| ノーモア・ミナマタ訴訟
弁護士 寺内大介
唐突な出会い 中国人研修・技能実習生との出会いは、唐突だった。 熊本中央法律事務所の定例の弁護士会議の際、事務所の顧問先である建交労から中国人についての相談があるとのことで、私たちは、外国人問題のイロハも知らないまま、中国から来た研修生・技能実習生と向き合うことになった。 出会いは案外そんなものかもしれない。 現代の女工哀史 天草の縫製工場で「働いて」いた若い女性たちは、時給300円という最低賃金法を大きく下回る条件での労働を余儀なくされていた。 休みもろくに与えられず、パスポートも預金通帳も取り上げられ、まさに、現代の女工哀史であった。 私たちと彼女たちとの出会いは偶然であったが、彼女たちが労働組合に駆け込み声を上げたのは、いわば制度が生み出した必然であったといえる。 私たちは農具じゃない 外国人問題に不案内な私たちが、彼女たちの代理人として訴訟を提起すると、今度は、阿蘇の農家で「働いて」いた若い女性たちが駆け込んできた。 夏はトマト、冬はイチゴ。「研修」生のはずが休みもない。熱中症になっても病院にも行けない。「代わりはいくらでもいる」。縫製工場と全く同じ処遇。 やはり、制度自体が生み出した人権侵害といわざるを得ない。 法の間隙の策出 「研修生は労働者ではない。したがって、労働法規は適用されない」、これが研修生を労働者ではなく道具として扱う正当化の論理であった。 一方で、外国人の単純労働を拒否しつつ、他方で、安い労働力を使いたいという企業の要請に応えるものとして、研修・技能実習という制度が存在する。 「研修」の名の下に労働法規を排除するという国の政策にほかならず、法の間隙を国自ら策出しているというほかない。 少し前に、研修医が過労自殺した事件で労働者性が認められ、話題になったが、働かせ方を規律するのが労働法規である以上、呼び名が研修生かどうかは関係ない。 山が動き出した 政府は、2008年3月25日、規制改革会議の答申をふまえ、研修生の実務研修に対して労働法上の保護が受けられるようにすべきとの閣議決定をした。 彼女たちの叫び声がようやく政府に届き始めたといえる。 2009年初頭には、彼女たちの肉声が、熊本地方裁判所の大法廷に響き渡る。今なお横行する不正行為の数々を是正させるうえで、厳正なる司法判断が待ち望まれている。 労働者を粗末にする企業・国に未来はない 私が弁護士1年目に出会った事件に、濱田重工リストラ事件がある。新日鉄の下請会社で雇用調整のための転勤辞令を拒否したために、集団で懲戒解雇されたという事件であった。そのとき、解雇された労働者の一人は、解雇撤回闘争の最中、「今はただ働きたい」と語っていた。 技能実習生の彼女たちは、特定の受入機関でなければ働けない。労働法規を遵守している企業が少ないこともあり、彼女たちは働きたくても働けない。 そうした彼女たちの立場につけこみ、彼女たちを道具として利用する企業、これを推進する国に未来はない。 そしてわが祖国ニッポン 日本に入ってくる労働者は、どうしても日本に来なければならない状況が母国にあるのだろう。他方、日本の労働者にとっても、解決しなければならない問題は山積している。 しかし、ボーダレスの時代と言われて久しい今日、人種差別ともいうべき制度を放置しておくわけにはいかない。 「外国」から来た彼女たちが私たちに投げかけたテーマは、奥深く、しかし、詰緊の課題といえよう。 (「<研修生>という名の奴隷労働」より転載) #
by tanpopo-tera
| 2010-02-12 15:09
| 中国人研修生
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